100NLzプレイヤーが分析する一場面 ICM編~WSOP 2019 MILLIONAIRE MAKER $1,500 NO LIMIT HOLD'EM Finall Table~
- キャッシュゲームとトーナメントゲームの違い
- 状況整理
- A♣K♣でのオールインコールの正当化条件
- フォールドした場合の$EV
- オールインコールした場合の$EV
- $EVに従った結論
- ケリー基準に従った場合(この節にはミスが指摘されています。次回の記事で訂正する予定です)。
- 終わりに
こんにちは。こんばんは。フィッシュ&チップスのフィッシュかもです。
今回は、前回の内容をIndependent Chip Model(ICM)を踏まえて再検討したいと思います。
キャッシュゲームとトーナメントゲームの違い
キャッシュゲームにおいては、「得たチップの量」が「得た金銭の量」と一致します。
したがって、「チップの期待値(Chip EV)」がアクションの指標になります。
しかし、トーナメントゲームにおいては、「最終的に得た順位」によって「得られる金銭の量」が決まります。
ここでは、「チップの量」がただちに「金銭の量」に結びつくわけではない(チップ量が1点でも残っていれば準優勝がありうる)ので、Chip EVをアクションの指標として用いることが不適切になる場合があります。
そこで、専門外ではありますが、「チップの量」を「得られる金銭の期待値($EV)」に変換し、アクションの指標として利用します。
この変換については、インターネット上に無料で便利な計算機が落ちているので借用することにします。
状況整理
まずは状況整理。
前回・前々回取り上げた一場面の直前のペイアウトストラクチャー・各自のスタック・各自の$EVは次の通りです。
そして、実験的に6位のスタック量を1にしてみます。
6位のスタック量が$EVと比例関係にないことが確認できます。
さて、それでは舞台をAKsのフロップベット・オールインコールの時点に遡りましょう。
A♣K♣でのオールインコールの正当化条件
$EVをアクションの指標にした場合、A♣K♣のオールインコールが正当化されるには、それがフォールドした場合の$EV以上である必要があります。
フォールドした場合の$EV
先にフォールドした場合の$EVを調べます。
BUがBBのオールインにフォールドした場合、各プレイヤーのスタック量と$EVは次の通りになります。
SB -0.8M
BB +11.1M+0.8M+7.7M=+19.6M
BU -(11.1M+7.7M)=-18.8
このときのBUの$EV(Fold)は$693,059.78であることが分かりました。これを基準(±$0)とします。
オールインコールした場合の$EV
次にオールインコールした場合の$EVを調べます。
$EV(Call)=1試行当たりに得られる値の平均
=コールして勝ったときに得られる値×勝率+コールして負けたときに得られる値×敗率
BBのチェックレイズオールインレンジを取り出し、A♣K♣のみとPiosolverにかけたところ、A♣K♣の勝率は57.396%しかありませんでした。
そのため、敗率は42.604%とします。
勝ったり負けたりしたときに得られる値は、勝敗が付いたときに得られるチップ量を出してから、それを$EVに変換する必要があります
そこで、まず得られるチップ量を調べます。
勝ったときに得られるチップ量は、ポットの大きさと等しいです。
具体的には、24.6M+7.7M+43.275M=75.575Mです。
このとき、各プレイヤーのスタック量と$EVは次のようになります。
BB 86.25M-54.375M=31.875M
BU 35.575M+75.575M=111.15M
負けたときに得られるチップ量は、ー(BUのスタック量)です。
具体的には、-35.575Mです。
このとき、各プレイヤーのスタック量と$EVは次のようになります。
BB 105.85M+35.575M=141.425M
BU 0
※BUの$EVは$266,771です。
素材がそろったので、$EV(Call)を求めてみます。
$EV(Call)=($1,028,411.38-$693,059.78)×57.396%+($266,771-$693,059.78)×42.604%
=$335,351.6×0.57396-$426,288.78×0.42604
=$192,478.404336-$181,616.0718312
=+$10,862.3325048
$EVに従った結論
したがって、$EV(Call)は$EV(Fold)を$10,862.3325048上回るので、$EVを行動の指標にした場合は、A♣K♣でのオールインコールが正当化されることになります。
ケリー基準に従った場合(この節にはミスが指摘されています。次回の記事で訂正する予定です)。
BUがフォールドした場合の$EVである$693,059.78を1とした場合、BUがコールして勝った場合には$335,351.6(約0.484)増え、負けた場合は$426,288.78(約0.615)減ります。
そのため、仮にケリー基準からオールインコールの必要勝率xを求めると、
{(1+0.484)^x} *(1-0.615)^(1-x)≧1を満たす必要があります。
このときxはx≧0.707437を満たす必要があります。
しかし、A♣K♣の勝率は57.396%に過ぎないため、ケリー基準に従うとコールを正当化できないことになります。
終わりに
いかがでしたか。今回はICM($EV)や$EVを用いたケリー基準から、BUのA♣K♣でのオールインコールの妥当性を検証してみました。
そもそも$EVを持ち出すのならば、プリフロップからすべてのレンジを見直す必要があるかとも思いますが、煩雑すぎるので今回は割愛させていただきます。あしからずご了承くださいませ。
考え違いや計算間違いなどがありましたら、ご指摘くださると幸いです。
また、今回BUはBBにスタックをカバーされており、負けるとそれ以上「試行回数を重ねること」ができなくなってしまいます。そのため、「試行回数を重ねること」を前提とした$EVや$EVを用いたケリー基準を行動の指標にすることの適切さが、そもそも問題になるかもしれません。